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それでも日高屋は私のことを知らない

 

私は熱烈中華食堂 日高屋が好きだ。

 

 

千円あれば、ラーメンと餃子を食べながらハイボールが飲める。

三品盛り合わせ(焼き鳥ネギ和え・メンマ・キムチ)とホッピーだけ頼むのも幸せだ。

お米が食べたい気分のときには生姜焼き定食などもいい。

 

日高屋のメニューには何万通りもの組み合わせがあるので、

自分だけのオリジナル日高屋を楽しむことができます!

 

 

あと、大盛り無料などのサービス券が永遠にもらえる。

富士急ハイランドがちょっと安くなる券とかついてる。

 

富士急ハイランドにいるお客さんのほとんどは日高屋のサービス券利用者です!

 

 

私は日高屋が好きだ。

 

でも日高屋は私のことなんて知らない。

私がただ一方的に、日高屋に行ってラーメン食べてるだけ。

 

私より日高屋に通ってる人なんてたくさんいる。

私より日高屋を愛してる人はたくさんいる。

 

 

なのに私は勝手にツイッターで「日高屋」「日高屋」言ったりして、

勝手に日高屋を自分のアイデンティティにしようとしてる。

 

いけないって、分かってるけど……。

 

 


 

―――2013年、春が来る少し前。

 

まだ高校生だった私は、日高屋に一人で入ることを恥ずかしいと思っていたのか、

見栄を張ってサンマルクカフェに入っていた。

 

誰へ対するどんな見栄なのかは知らないが、

この頃は日高屋で肩を並べてラーメンをすする大人たちに対して

「なんか切ないなぁ」とさえ思っていたのだ。

 

 

自分はまだ日高屋に一人で入って寂しく飯食うような人間じゃねぇ。 

 

 

ほんとはラーメンと餃子が食べたくて仕方なかったけど、

勇気が出なくて日高屋の扉を開けることができなかった。

 

その扉の向こうには天国があるのに、まだそんなことも知らずに―…。

 

 

 

でもその数か月後には日高屋に行きまくり、

二年後には行き過ぎて体が臭くなっていた。

 

自分から漂う、信じられないぐらいのおじさんの匂い。

一体何が起こったのか。

 

恐らく、

「ラーメンと餃子じゃないと今の私を満たすことはできない」

という状態だった私は、近くにあった日高屋を見つけ、

 

勇気を出して初めて一人で入り、

適当に空いている席に座り、

注文し、食べて、お金を払う。

 

という気軽さに、とりこになったのだろう。

 

 

私はなかなか一人でお店に入ることができない。

 

ランチタイムがどうとかセットがどうとかメニューが複雑だと諦める。

周りがカップルとか友達グループだらけのファミレスは怖い。

食券機や呼び鈴がないお店は、店員さんを呼ぶときにすごく踏ん張る。

個人経営のお店は、常連の世界がありそうで入れない。

 

 

そんなとき日高屋に出会った。

初めて一人で気軽に入れる店ができた。

 

生まれて初めて見た対象を「親」だと思う小鳥のように、

私は日高屋のことを追いかけるようになった。

 

ピヨピヨ。

 

ピヨピヨピヨピヨ………

 

 

 

 

 

 

しまいにはただ店名を呟いたり、

日高屋を食べない貴族を攻撃したり、

セットを「キメる」などと言い出すようになった。

 

今はもう無い、旨辛温玉ラーメン。(どうして?大好きだったのに)

 

このときにはもう、日高屋くんのこと……。

 

 

一番上の呟きから伺えるように、

私は完全に「一人日高屋」をカッコイイものとして扱い始めた。

 

 

 

 

そんなわけはない。

 

 

 

 

 

 

夜の街に、この日高屋の提灯がポウ…と灯っている景色は涙が出るほど美しい。

美しいライトアップ。スカイツリー、東京タワー、日高屋の提灯。

 

この提灯を見る度に、「お祭りだ!」と思う。

 

お祭りだ!

ワッショイワッショイ日高屋ワッショイ!熱烈ワッショイ!

 

そう心で叫びながら入店し、ラーメン神輿を胃で担ぐ。

舌鼓が鳴り響き、祭りは盛り上がってゆくばかり。

 

 

ワッショイワッショイワッショイワッショイ

 

ッポン!(舌鼓)

 

 

 

 

1月5日。年が明けてまだ間もない頃。

私はまた日高屋にいた。

 

 

とうとう愛を告白してしまった。

 

日高屋は、私がやりたくてもできなかったことを、

簡単にやってのけてしまう。

 

私はからあげが大好きだ。とんこつラーメンも大好きだ。

でも別々に食べてた。それが常識だと思ってたから。

 

でも、日高屋がそれをぶち壊してくれた。

 

 

のせればよかったんだ!

 

 

新しい道が、目の前に現れたような気持ちだった。

からあげをラーメンにのせるという、まだ舗装されてないデコボコの道。

 

でも、だからこそ、歩くのが楽しかった。

 

 

 

日高屋が狂っているのか自分が狂っているのかは分からないが、

油そばが腹にたまらない現象が毎回起こる。

 

食べたあと、「え……?お腹空いてるんですけど……?」となる。

 

麺が通常のラーメンの1.5倍にもかかわらずだ。

なんでだ?

 

 

私はいつもラーメンのスープを飲み干すので、

もしかしてスープでお腹を膨らませているのかもしれない。

 

ということは、麺しかないこの油そばは胃にとっては「無」……?

 

でも、美味しい。

どうしたらいいんだろう。分からないよ……。

 

 

心を病んでしまった日もある。

 

 

 

明らかにやかましいのに「やかましい」と言わず、

ふぁぼってくれる42人のフォロワーさん。

本当にいい方々に恵まれた。

この42人と小学校のクラスメイトになりたかった。

「給食が日高屋のラ・餃・チャセットだったらいいのにね~」とか話したかった。

 

あまりに日高屋が入りやすいので、

他のラーメン屋を求めていても

気付いたら日高屋のラーメンを食べているときはよくある。

 

浮気したいのに、できない体になっちゃったんだ。

 

 

 

日高屋にときどきいる、昼から飲んでいるおじさん。

横目で眺めては、「どんな生活してんだ」と思っていた。

 

しかし一度、なんとなく落ち込んでいるときに日高屋に入り、

餃子とハイボールを頼んだ。

 

 

になった。

 

 

食べたいものを食べ、食べ終わったらまたなにかを頼み、

酔いたいだけ酔い、帰りたいときに帰る。

 

「なんかあったの?」なんて日高屋は聞いてこない。

日高屋が、日高屋にいるすべての人間が、私のことなんて気にしていない。

 

それがだ。

 

 

人生の極致。

あのおじさんたち、こんな幸せを味わっていたのか。

 

 

そして私は完全にハイボールおじさんと化した。

銭湯のあとに日高屋で一杯という幸せを見つけてしまった。

 

幸せは歩いてこない。

だから日高屋に歩いていくんだね。

 

 

 

「おめでとう」と思いながら撮った写真。

私は何者でもないのに。

 

てっきり熱烈中華食堂日高屋が400店舗に達したのかと思ったら、

焼鳥日高や来来軒、らーめん日高などを合わせた数とのこと。

 

しかし私は熱烈中華食堂日高屋以外あまり行ったことが無い。

自分はにわかファンだ、と思った。

 

 

私が知っている日高屋の世界はまだまだ狭いのだ、と……。

 

 

 

日高屋はみんなに愛されている。

 

日高屋がある街でお祭りなどのイベントが行われているとき、

こんな風にズラリと行列ができることもある。

 

 

いつ行っても大概入れる日高屋。

 

……私はこういうとき、並ぶことができない。

 

お腹が空いてる時に、待てない。

 

でもこの人たちは並んでまで日高屋で食べたい人たちだ。

 

 

負けた、と思った。

 

 

 

限りなく日高屋っぽいけど日高屋じゃない店に、

浮気しそうになることもある。

 

熱烈って言ってるし、いいかなって思うときもある。

 

でも……

 

 

日高屋は、自分で「うまいラーメン」とかあんまり言わない気がする。

どうだっけ。

 

 

あれ?

 

あんまり、日高屋のこと、知らないな…。

 

 

 

 

でもね日高屋。

日高屋が結んでくれる縁ってあるんだ。

 

バイト頑張ってたら、急に知らないおじさんが日高屋のクーポンくれたんだ。

 

ふふ、「日高屋が好きです」って顔に書いてあったのかな?

そんな顔は嫌だな。

 

これで私、ラーメン大盛りにできるんだよ。

0.5玉分、おじさんがくれた優しさの味がしたんだよ。

 

 

 

 

 

ねぇ、日高屋。

 

私最近、いろんなお店に入れるようになったんだ。

 

 

王将、幸楽苑、らあめん花月嵐、バーミヤン、富士そば……。

みんな美味しい。みんな幸せ。

 

前に比べたら、すぐ日高屋に入ることは、少なくなってしまった。

 

 

 

でも……

 

 

 

 

私が熱烈になれるのは、日高屋だけなんだ。

 

 

付き合ってくださいとは言えない。

だって、君は私のことなんて知らないから。

 

行って、油そば食べて、足りないなって笑ってるだけの、

ただの、お客さんだから。

 

 

 

それでも……

 

それでも、

 

日高屋の期間限定メニューで季節を感じたいの。

 

夏には黒酢醤油冷やし麺食べて、

冬にはチゲ味噌ラーメン食べたいの。

 

 

 

ねぇ、日高屋。

 

 

 

 

明日も行って、いいですか?

 

 

 

 

コメントをお書きください

コメント: 19
  • #1

    日高屋民 (木曜日, 28 12月 2017 19:38)

    日高屋最高!

  • #2

    明日 (金曜日, 29 12月 2017 00:45)

    知らない誰かが知らない誰かを愛し、知らないところで、人知れず幸せが巡っている。そんな世界がこの世の中を激烈に満たしている。目には見えない大切なことを教えてくれる記事でした。ありがとう。

  • #3

    阿佐ヶ谷 (金曜日, 29 12月 2017 16:36)

    天才か

  • #4

    近江 (金曜日, 29 12月 2017 17:52)

    大好き…

  • #5

    真田 (土曜日, 30 12月 2017 22:50)

    それ以上でもなく、それ以下でもない。日高屋は正義。迷走する吉野家が失った基本がここにある。

  • #6

    上武 (日曜日, 31 12月 2017 09:47)

    粋な記事
    さすがだ。

  • #7

    サバンナ (月曜日, 01 1月 2018 08:21)

    ハッピーニューイヤー、君に幸あれ

  • #8

    (日曜日, 07 1月 2018 18:01)

    いい記事だ…!!!
    こういう真摯な記事に出会いたかった。

  • #9

    阿佐ヶ谷 (金曜日, 16 2月 2018 16:00)

    本当に今まで読んだ記事の中で一番素晴らしいです。

  • #10

    チゲ味噌 (日曜日, 25 3月 2018 04:43)

    激しく共感しました、素晴らしいです。

  • #11

    ハチミツ☆ボーイ (火曜日, 24 4月 2018 00:47)

    1冊本出して下さい。

  • #12

    ぼん (金曜日, 31 8月 2018 18:49)

    私も日高屋大好きです。たまに、一人ゆっくり食べて、飲む時間って、最高ですよね。ありがとう、日高屋

  • #13

    日高屋 (金曜日, 14 9月 2018 00:50)

    なにいってんの

  • #14

    トム (月曜日, 26 11月 2018 23:12)

    日高屋って、何なんでしょうね。あの空間は本当に幸せになれる

  • #15

    日高屋を検索して流れてきた人 (日曜日, 16 12月 2018 20:50)

    どの駅前にも大体ある日高屋を「ありすぎだろどうなってんだ」と訝しんでましたが、この記事見ていっぺん入ってみようと思いました

  • #16

    (月曜日, 17 12月 2018 15:01)

    読んだ後、気づいたら日高屋で無心になり、食事をしていました。

  • #17

    大野 (火曜日, 26 3月 2019 20:59)

    詩ですね。
    詩集にしたらよいかと。

  • #18

    ヒトシ (金曜日, 31 1月 2020 17:48)

    日高屋はワラクシは10日連続でいってしまった。コ・ス・パはかなりいいですね。やはり日高屋愛は抑えられませんね。

  • #19

    はなちょうちん (土曜日, 11 4月 2020 11:32)

    今日は日高君に会える日だ♪♪
    コロナにも負けず休業しないで踏ん張ってる強い貴方が大好きだ!